AIの性能ベンチマーク【番外編】推論レベルを上げたら、料金はどうなるん?
Claudeのeffort、GPTのreasoning_effort、Geminiのthinking_level。同じモデルのまま推論レベルを上げると料金はどうなるのか。答えは「単価は変わらず、消費する出力トークンが増える」です。3社の公式ドキュメントと、Artificial Analysisのeffort別実コストデータで確認しました。Claude Opus 5はxhighとmaxが同じ63点なのに、コストは$927違います。確認日は2026年8月20日です。
シリーズ第5回の表で、モデル名の後ろに「(max)」や「(high)」という注記を付けたまま流してしまった。あれ何やねん、と思った人もおるはずや。今回は番外編として、そこだけを1本にする。同じモデルのまま推論レベルを上げたら、料金はどうなるんか。
先に答え。単価は1円も変わらへん
結論から言う。推論レベル(Claudeのeffort、GPTのreasoning_effort、Geminiのthinking_level)を上げても、1トークンあたりの単価は変わらへん。
Anthropic・OpenAI・Googleの公式料金表を確認すると、どの表にも「effort別」「thinking level別」の料金行が存在しない。モデル1つにつき、入力と出力それぞれ1レートしかない。
| モデル | 入力 / 100万トークン | 出力 / 100万トークン |
|---|---|---|
| Claude Opus 5 | $5.00 | $25.00 |
| Claude Sonnet 5 | $2.00 | $10.00 |
| GPT-5.6 Sol | $5.00 | $30.00 |
| GPT-5.6 Terra | $2.00 | $12.00 |
| GPT-5.6 Luna | $0.20 | $1.20 |
| Gemini 3.7 Flash | $0.75(期間限定) | $3.75(期間限定) |
「effortを明示的に上げると単価も上がる」と明言した公式の一文は、3社とも見つからなかった。ここは「料金表にeffort別の行がない」という事実からの帰結として書いておく。変わるのは単価やなく、消費するトークンの量になる。この一行が、この記事の背骨や。

単価という「1個あたりの値段」と、総額という「何個買ったか込みの合計」。この2つを一緒くたにして「料金が上がった」と言ってしまう記事が多い。この記事では、ずっとこの2つを分けて書いていく。
そもそも「考える」ってなんやねん
推論レベルを上げると何が起きるかを理解するには、「思考トークン」(thinking tokens、reasoning tokens)を知っておく必要がある。これは、AIが最終的な答えを出す前に、内部で組み立てている下書きのようなものになる。
人間が難しい問題を解くとき、頭の中で「まずこう考えて、次にこう検証して」と段階を踏むのと同じで、AIも内部で思考の過程をトークン列として生成している。推論レベルを上げるということは、この下書きの量を増やす(あるいはAI自身に増やすことを許可する)ことを意味する。
そして、この下書き部分が出力トークンとして課金される。ここが、この記事のもう1つの核心になる。
見えへんのに、全額払っとる
3社の公式ドキュメントは、ほぼ同じ内容をはっきり書いている。
Anthropicは、思考の表示設定をsummarized(要約を返す)にしてもomitted(一切返さない)にしても、「Billing is identical regardless of display setting」と明記している。表示を切っても、内部で生成したフル思考トークン分をそのまま支払う。
OpenAIは、「reasoning tokens are not visible via the API」としながらも、「they still occupy space in the model’s context window and are billed as output tokens」と続けている。生の推論内容は見えないが、出力トークンとして課金される。
Googleも同様で、「Pricing is based on the full thought tokens the model needs to generate, despite only the summary being output from the API」と説明している。APIから返るのは要約だけでも、料金の計算対象はフルの思考トークンになる。
3社が、同じことを同じくらいはっきり書いとる。ただし、中身が見えへんのと、量が確認できへんのは別の話や。OpenAIはusage.output_tokens_details、Anthropicはusage.output_tokens_details.thinking_tokens、GoogleはusageMetadataで、それぞれ消費した思考トークンの数量は確認できる。見えへんのは思考の中身であって、課金対象の量そのものは確認できる。

3社のつまみ、名前も段階も違う
推論レベルを設定するパラメータは、3社で名前も指定できる値もバラバラになっている。
| 会社 | パラメータ名 | 指定できる値 | デフォルト |
|---|---|---|---|
| Anthropic | output_config.effort | low/medium/high/xhigh/max | high |
| OpenAI | reasoning_effort | none/low/medium/high/xhigh/max(モデルによりminimalも) | medium |
thinking_level | モデルによる。Gemini 3.7 Flashはlow/medium/highのみ | medium |
Gemini 3.7 Flashは、思考をオフにできへん。最低の設定がlowで、minimalもoffの選択肢もない。minimalに対応するモデルでも、Googleは「minimalは思考がオフになることを保証しない」と書いている。設定を切ったつもりでも、内部では最低限の思考が走る前提でおいたほうがええ。

この3つの名前、混同したまま使い続けとる人も多いんちゃうかな。自分が触っとるのがどの会社のAPIか、まず確認しといてほしい。複数のモデルを切り替えて使っている場合は特に、パラメータ名を書き間違えて意図した設定が反映されていない、ということも起こりうる。
Claudeは、古いやり方がもう通らへん
Claudeには、以前thinking.type: "enabled"とともにbudget_tokensでトークン数を直接指定する方式があった。この方式はClaude 4.6で非推奨になり、4.7以降では拒否される。Opus 5・Sonnet 5ではeffortを使う設定に変わっている。
現行の方式はthinking.type: "adaptive"で、公式ドキュメントは「思考トークンの予算は設定しない(You don’t set a thinking token budget)」と明記している。細かいトークン数を自分で決める時代から、レベルという段階を選ぶ時代へ移り変わったことになる。
で、いくら変わるんか
ここからが山場や。Artificial Analysisが、Intelligence Indexを1回走らせるのにかかった実際のコストを、effort別に公開している。まず注意しておきたいのは、この数値は「1つのタスクにかかる費用」やなく「指数全体を1回走らせた総額」だということ。ここを取り違えると、記事全体の意味が変わってしまう。
GPT-5.6 Sol
| effort | Intelligence Index | 実行コスト | 出力トークン |
|---|---|---|---|
| low | 51 | $343.87 | 6.6M |
| medium | 56 | $580.17 | 12M |
| high | 57 | $954.95 | 21M |
| xhigh | 59 | $1,525.00 | 35M |
| max | 61 | $2,823.25 | 70M |
lowからmaxまで、コストは約8.2倍、出力トークンは約10.6倍に増える。点数は51から61へ、10ポイント伸びている。
GPT-5.6 Solは、low→maxで約8.2倍
高いところまで上げれば、それに見合うだけの伸びは一応ある。ただし、この伸び方が一様ではないことが、次のClaude Opus 5の数字で分かる。
Claude Opus 5は、xhighとmaxが同じ63点
ここが、この記事でいちばん伝えたい数字になる。
| effort | Intelligence Index | 実行コスト | 出力トークン |
|---|---|---|---|
| low | 52 | $555.25 | 12M |
| medium | 59 | $1,116.24 | 29M |
| high | 61 | $1,974.35 | 52M |
| xhigh | 63 | $2,909.30 | 76M |
| max | 63 | $3,836.05 | 100M |
xhighとmax、どちらも63点で同じや。それやのに、コストは$2,909.30から$3,836.05へ、$927増える。約1.3倍になる。点数はまったく伸びてへんのに、金額だけ増えとる。
「いちばん上のレベルにしとけば安心」というのは、この数字を見る限り成立せえへん。上げれば上げるほど良くなるという発想は、少なくともこの区間では捨てたほうがええ。
参考までにGemini 3.7 Flashも、lowからhighまでの3段階でコストが約2.9倍、点数は51から56へ5ポイント伸びる。同じ会社の同じモデルでも、段階を上げたときの伸び方はモデルごとに違う。
なお、Artificial AnalysisのGPT-5.6発表記事ではSol(max)が「59点・1タスクあたり$1.04」と書かれていて、現在のモデルページの「61点・$2,823.25」とは数値が違う。指数のバージョンと計測時期の違いによるもので、この記事はモデルページ側の数値に統一し、確認日を2026年8月20日として記載している。

63点で頭打ちになっとるのに、財布だけ軽くなる。これがeffortを上げる怖さや。
上げても、答えが変わらへんかった実測
点数だけやなく、実際のタスクでも似た現象が報告されている。@kai_kou氏が2026年8月4日に、Gemini 3 Flash Previewで複利計算(月8%×12ヶ月)をminimal・low・medium・highの4段階、それぞれ1回ずつ試した記録がある。
結果は、4段階すべてで正解。コストはminimalからhighで約2.7倍、レイテンシは約1.9倍に増えたが、答えの正しさは1ミリも変わらなかった。
この実測は、単純な算術タスクを各1回だけ試行した結果である。試行回数が少ない条件つきの記録として読んでほしい。それでも、「上げれば必ず良くなる」という思い込みに対する具体的な反例にはなる。
日本語・英語を問わず調べた範囲では、こうした実測はどれも試行回数が少ない単発の記録にとどまっている。多数回試行を重ねた統計的なデータは、今のところ見当たらない。効果の有無を確かめたいときは、他人の実測結果を鵜呑みにせず、自分のタスクで同じように1回測ってみるのがいちばん確実になる。
待ち時間は、もっと極端に効く
コストだけでなく、待ち時間にも大きな差が出る。Artificial AnalysisのTTFT(初回トークンが返るまでの時間)を見ると、GPT-5.6 Solはlowで2.21秒、maxで195.05秒になる。約88倍。highからxhighの区間だけでも、7.00秒から42.65秒で約6倍になる。
195秒待つ画面は、人が向き合って使うものやない。バッチ処理や、時間のかかる調査タスクなら許容できても、チャット画面でユーザーを待たせる用途なら、maxは選択肢から外したほうがええ。

課金されたのに、空で返ってくることがある
ここも見落とされがちな事実になる。OpenAIの公式ドキュメントには、次のように書かれている。トークン上限を超えると、statusがincomplete、incomplete_details.reasonがmax_output_tokensとして返る。これは可視の出力が生成される前に起こりうる。つまり、入力トークンと推論トークンの費用は発生したのに、目に見える応答を一切受け取れないことがある。
これが起きる理由は、推論トークンがmax_output_tokensの上限にカウントされるためになる。思考の下書きだけで上限を使い切ってしまうと、そのあとに続くはずの本来の答えが生成される前に打ち切られてしまう。Anthropicでも、思考トークンはmax_tokens制限にカウントされる。
対策はシンプルで、OpenAIは「推論と出力のために、最低25,000トークンは確保しておけ」と推奨している。この余白を切り詰めすぎると、料金を払ったのに答えが手に入らないという事故につながる。
Azure OpenAIを使っている場合は、もう1つ注意点がある。Chat Completions APIでは、パラメータ名がmax_tokensではなくmax_completion_tokensに変わっている。古いコードのままmax_tokensを指定していると、意図した上限が反映されず、同じ事故が起きやすくなる。移行時に見落としやすいポイントなので、Azure環境で運用している人は一度確認しておいたほうがええ。
Anthropicの「バジェットは目標であって上限やない」
Anthropicは、この点について少し違う補足をしている。「バジェットは厳密な上限ではなく目標です。Claudeはバジェットを使い切るかなり前に推論を停止することがあります」。上げた設定を、実際にはそこまで使い切らないこともある、ということになる。
単価が変わるのは、こっちの話
ここまでの話とはっきり分けておきたいのが、単価そのものが変わる別の要因になる。effortとは無関係に、次の条件で単価が動く。
| 要因 | 変わり方 |
|---|---|
| Fast mode | Anthropic(Opus 5・Opus 4.8)は入力$10・出力$50で通常の2倍。OpenAI(Sol・Terra・Luna)も2倍 |
| Batch API | 3社とも約50%引き |
| プロンプトキャッシュ | Anthropicは5分書込1.25倍・1時間書込2倍・読出0.1倍(90%引き)。OpenAIはキャッシュ入力が入力の10%、書込1.25倍 |
| 長文コンテキスト | OpenAIは272Kトークン超で入力2倍・出力1.5倍。Anthropicは4.6以降割増なし |
これらはeffortの話とは完全に別の軸になる。effortを上げても単価は動かないが、Fast modeを使えば単価そのものが2倍になる。この2つを混同すると、原因の切り分けができなくなる。
請求額が想定より高くなったときは、まず「単価が変わる要因を使ったか」と「消費トークンが増えたか」を切り分けて確認するとええ。Fast modeやBatch APIを意図的に選んでいないのに単価が変わっていることはまずない。多くの場合、犯人はeffortを上げたことによるトークン消費量の増加になる。
うちの仕事、3つでどう決めるか
このシリーズで繰り返し使ってきた3つの仕事に、今回の話を当てはめる。
| 仕事 | 上げる価値があるか | 理由 |
|---|---|---|
| ① 長文の記事を書く | 低い | 字数や構成を守れるかはIFEval(指示遵守)の話であって、思考量とは別の能力になる。上げても形は守らへん |
| ② リサーチする | 高い | 間違いのコストが高い。複数の資料を突き合わせる作業は、思考量が効きやすい |
| ③ 作ったプログラムを直す | 場合による | やり直しがきくので、低めで回数を稼ぐ選択もある。1回で通したいなら上げる |
判定の目安は次の4つになる。やり直しがきく仕事は、低めで回数を稼ぐ。間違いのコストが高い仕事は上げる価値があるが、上げて答えが実際に変わるかを1回測ってから決める。形式を守ってほしいだけの仕事は、上げても効かへん。見るべきはIFEvalのような別の試験になる。人が画面の前で待つ用途では、maxは選択肢から外す。195秒は待たせられへん。
自分の仕事がこの3つのどれにも当てはまらへん場合も、考え方は同じや。「間違えたときに、どれだけ痛いか」と「やり直しがどれだけ簡単か」の2つを並べてみてほしい。痛みが大きくてやり直しが難しい仕事ほど、上げる価値がある。逆に、痛みが小さくてすぐやり直せる仕事は、低いレベルで数をこなしたほうが、総額でも時間でも得になりやすい。
今日やる3つ
- いま使っとる設定を確認する(多くはデフォルトのまま動いている)
- mediumで1回測る(トークン数と時間を記録する)
- 1段階上げて、答えが変わるか見る。変わらへんかったら戻す
この3つを1回やっておけば、あとは自分の仕事に必要な設定が分かる。毎回考え直す必要はない。

やったらあかんこと
最初からmaxにする
Claude Opus 5ではxhighとmaxが同じ63点で、コストだけ$927増える。まずmediumから測って、必要な分だけ上げる。
max_output_tokensを絞ったまま上げる
推論トークンも出力の上限にカウントされる。上限を絞ったまま推論レベルを上げると、答えが生成される前に打ち切られることがある。OpenAIは最低25,000トークンの確保を推奨している。
単価が上がったと勘違いする
3社とも料金表にeffort別の行はない。単価は変わらへん。増えるのはトークンの消費量。
1回の測定で結論を出す
@kai_kou氏の実測も各1回試行という条件つきになる。自分の仕事で複数回試してから判断したほうがええ。
Fast modeとeffortを混同する
単価そのものが動くのはFast modeやキャッシュの設定であって、effortではない。原因を混ぜたら切り分けができなくなる。
よくある質問
推論レベルを上げると、1トークンあたりの単価も上がりますか
上がりません。Anthropic・OpenAI・Googleの公式料金表には、effort別・thinking level別の料金行が存在しません。モデル1つにつき1レートです。上がるのは単価ではなく、消費する出力トークンの量です。
思考の中身が見えないのに、課金されるのですか
課金されます。3社とも、思考の表示設定にかかわらず、内部で生成したフル思考トークン分を出力トークンとして課金すると公式に明記しています。ただし中身は見えなくても、消費した数量はusage情報から確認できます。
いちばん上のレベルにしておけば安心ですか
そうとは言えません。Claude Opus 5はxhighとmaxで同じ63点ですが、コストは$2,909.30から$3,836.05へ$927増えます。点数が伸びない区間まで上げると、費用だけが増えます。
どのレベルから始めればいいですか
mediumから始めてください。1回測ってトークン数と時間を記録し、1段階上げて答えが変わるかを確認する。変わらなければ元に戻す、という手順が確実です。
課金されたのに答えが空で返ってきました。なぜですか
推論トークンがmax_output_tokensの上限にカウントされ、思考の下書きだけで上限を使い切ってしまった可能性があります。OpenAIは推論と出力のために最低25,000トークンを確保しておくことを推奨しています。
APIを使っていないのですが、関係ありますか
関係があります。ChatGPTやClaude、Geminiのアプリにも「考える設定」があり、同じ構造でコストと待ち時間が変わります。APIを使わない人にとっても、待ち時間として自分に返ってきます。

これで、あの注記が読めるようになった
シリーズ第5回の表で、モデル名の後ろに付けていた「(max)」「(high)」という注記。あれは単なる但し書きやなく、単価は変わらないままトークン消費量と待ち時間だけが変わる、という今回の話そのものやった。
推論レベルは、上げれば上げるほど良くなるつまみやない。まずmediumで測って、自分の仕事に必要な分だけ上げる。それだけで、財布と待ち時間の両方を守れる。
